
熊本地震で崩れた家、崩れなかった家。その差はたった数年の"基準"だった。築年数で分かる地震リスク。
2026年7月28日、熊本を再び大きな地震が襲いました。テレビやSNSで「地震 ゆれた」というキーワードとともに、当時の揺れの大きさを振り返る投稿を見た方も多いのではないでしょうか。
被災地の映像を見ていると、不思議な光景に気づきます。隣同士に建っている家なのに、一方は倒壊し、もう一方はほとんど無傷——。実はこの明暗を分けた最大の要因は、地盤でも立地でもなく、その建物が「いつ建てられたか」、つまりどの耐震基準で建てられたかにあります。
これは持ち家だけの話ではありません。賃貸物件を選ぶときも、「家賃」「立地」「間取り」だけでなく、建物の「築年数」と「耐震性」は、実は安心して暮らすための重要なチェックポイントです。この記事では、熊本地震のデータをもとに、築年数と地震リスクの関係、そして安全な住まい選びのポイントをわかりやすく解説していきます。
1. 熊本地震で見えた"明暗"——被害の実態から分かること

隣同士なのに、なぜ差がついたのか
「なんで、隣の家は無事なのに、こっちは倒れているんだろう」——2026年7月の熊本地震の映像を見て、そう感じた人も少なくないはずです。
熊本県の推計によると、2026年8月6日時点で県内の住家被害は約1万5700棟、うち全壊は約700棟にのぼるとされています。日本建築学会の災害委員会も、鉄筋コンクリート造の建物を中心とした構造被害を報告しており、被害の大きさを分けた一番の要因は、実は単純です。それが「その家がいつ建てられたか」、つまりどの耐震基準で建てられたかという点なのです。
10年前のデータが教えてくれること
実はこの「築年数と被害の関係」は、2016年の熊本地震のときにすでにはっきりとしたデータとして示されています。被害が集中した益城町中心部で行われた、木造住宅の悉皆調査(全棟調査)の結果を見てみましょう。
1981年5月以前、いわゆる「旧耐震基準」で建てられた木造住宅(759棟)は、倒壊・崩壊が28.2%、大破が17.5%。合わせると45.7%、およそ2棟に1棟が大破以上のダメージを受けていました。「無被害」だった建物は、わずか5.1%にとどまります。
つまり、1981年より前に建てられた建物は、震度7クラスの揺れが来たとき、半分近くが住めない状態になってしまう可能性がある、ということです。
"新耐震だから安心"とは、実は言い切れない
では「1981年以降の建物なら安心」なのでしょうか。答えは、半分イエスで半分ノーです。
1981年6月〜2000年5月の「新耐震基準」で建てられた住宅(877棟)は、倒壊・崩壊8.7%、大破9.7%。旧耐震に比べれば被害は大きく減っており、基準強化の効果ははっきり出ています。ただし、5〜6棟に1棟はやはり大破以上の被害を受けており、「新耐震だから絶対大丈夫」と思い込むのは少し危険です。
一方、接合部の規定がさらに厳しくなった2000年基準以降になると、話は変わってきます。益城町中心部の1,955棟を対象にした調査では、2000年6月以降に建てられた住宅の倒壊・崩壊率はわずか2.2%。住宅性能表示制度の「耐震等級3」だった16棟にいたっては、14棟が無被害、残る2棟も軽微・小破にとどまりました。
築年数のたった数年の差が、生死や資産の明暗を分けるレベルの違いを生む——これが、2016年と2026年、2度の熊本地震のデータが物語っていることです。
2. "耐震基準"はいつ、何が変わったのか

そもそも「耐震基準」って何のこと?
「旧耐震」「新耐震」という言葉はよく聞くけれど、正確に説明できる人は意外と少ないかもしれません。まずはここを整理しておきましょう。
日本の建物の耐震性を定めているのは「建築基準法」という法律です。この法律自体は1950年(昭和25年)に制定され、木造住宅に必要な壁の量などを定める「壁量規定」が最初に盛り込まれました。その後、大きな地震が起きるたびに"弱点"が見つかり、法律も改正されてきました。特に大きな改正が、1981年と2000年の2回です。
1981年6月1日「新耐震基準」の誕生
きっかけは1978年の宮城県沖地震でした。この地震で明らかになった建物の弱さを受けて、1981年に建築基準法施行令が大幅に見直されます。
それまでの基準(旧耐震基準)は「震度5程度の地震で大きな損傷を受けないこと」を目安にしたものでした。これに対して新耐震基準は、「震度6程度の大地震でも、建物が倒壊・崩壊しないこと」まで見据えた、一段階レベルの高い基準に変わっています。
つまり旧耐震は「そこそこの地震で壊れなければOK」、新耐震は「大地震が来ても人が生き埋めにならないように」という発想に切り替わった、と考えると分かりやすいでしょう。実務上は、1981年5月31日までに建築確認を受けた建物が「旧耐震」、1981年6月1日以降に確認を受けた建物が「新耐震」と区分されます。
2000年基準——"新耐震のグレーゾーン"を埋めた改正
ここで多くの人が誤解しがちなポイントがあります。「1981年以降の建物なら、みんな同じくらい安全」というイメージです。実はそうではありません。
1995年の阪神・淡路大震災では、新耐震基準の木造住宅にも被害が見られました。その反省から、2000年(平成12年)に建築基準法がさらに改正され、いわゆる「2000年基準」が生まれます。ここでは、地盤の強さに応じて基礎の形式を特定することや、柱の上下(柱頭・柱脚)を補強金物でしっかり固定することなどが、初めて明確なルールとして規定されました。
1981年の新耐震基準は「壁の量」を中心に強化したものだったのに対し、2000年基準は「壁と柱・基礎のつなぎ目」まで踏み込んで強化した、というイメージです。この"つなぎ目の弱さ"こそが、前章で触れた「新耐震なのに倒壊した家」が多く出た一因とされています。
3. 築年数から地震リスクをセルフチェック

まず見るべきは「築年数」じゃなく「建築確認日」
ここまで読んで、「今住んでいる部屋、築何年だっけ…」と気になった方も多いはずです。ただ、ひとつだけ注意してほしいことがあります。チェックすべきは「完成した年」ではなく「建築確認を受けた日」という点です。
前の章で触れた通り、新耐震基準の境目は「1981年6月1日に建築確認を受けたかどうか」で決まります。建物の完成は1982年でも、確認申請自体が1981年5月以前に出ていれば、旧耐震基準の建物として扱われます。だから「築年数」だけでなく、「いつ確認申請が出た建物か」まで意識するのが正確です。
どこを見れば分かる? 具体的な確認方法
賃貸物件を検討中の場合、一番早いのは不動産会社に「この物件、建築確認はいつ受けていますか?新耐震ですか、2000年基準ですか?」と直接聞いてしまうことです。重要事項説明の対象にもなっている情報なので、担当者はすぐに答えられます。
また、物件情報に記載されている「築年月」だけでも、おおよその目安にはなります。
増築・リフォーム歴があると、話はもう少し複雑になる
ここで一つ注意点です。「新耐震基準で建てられた建物だから安心」と思っていても、その後に増築や大規模なリフォームが行われていると、耐震性が変わっている可能性があります。壁を取り払って広いリビングにした、大きな窓に交換した——こうした変更は、見た目以上に建物の強度に影響することがあります。
賃貸の場合はオーナーや管理会社が耐震性を管理していますが、それでも「この建物、リノベーション済みと書いてあるけど、構造には手を入れているのかな?」と一言確認してみると安心材料になります。
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4. リスクが高い場合、どうする?

まずは「耐震診断」で"数字"にする(持ち家の場合)
もし今の住まいが持ち家で、旧耐震基準の建物だった場合は、専門家による耐震診断を受けて、家の強さを数値化することが第一歩です。診断では「評点」という指標が出て、1.0未満だと「倒壊する可能性がある」、1.5以上で「倒壊しない可能性が高い」とされます。
多くの自治体が、1981年5月31日以前の旧耐震基準の建物を中心に、耐震診断・耐震改修への補助制度を用意しています。最近では対象を2000年5月31日以前の建物にまで広げる自治体も増えているため、お住まいの市区町村のホームページで「耐震診断 補助金」と検索してみることをおすすめします。
改修するなら、費用の目安と補助をセットで考える
診断の結果、補強が必要と分かった場合、耐震改修の費用は工事内容によって数十万円〜100万円超と幅があります。国の制度としても、耐震改修を行った場合、標準的な工事費用の10%が所得税から控除される仕組みや、固定資産税を一定期間半分に減額する措置が用意されています。
「住み替え」も選択肢に入れる
正直に言うと、旧耐震・築古の建物の場合、補強工事の費用が想像以上にかさみ、「これなら建て替えたほうが安い」というケースも少なくありません。
そして、これは賃貸に住んでいる方にとって、実は大きなメリットでもあります。持ち家であれば耐震改修や建て替えには多額の費用と時間がかかりますが、賃貸なら「新耐震基準・2000年基準の物件に引っ越す」という選択肢を、比較的手軽に取ることができるからです。
「地震が不安だから、もっと新しい建物に住み替えたい」——そんなときこそ、初期費用を抑えられるサービスを活用しない手はありません。
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まとめ:安心して暮らせる住まいを選ぶために

熊本地震が繰り返し教えてくれているのは、「築年数」というシンプルな情報が、実は命と資産を守るための重要なサインだということです。
旧耐震だから、新耐震だからと一喜一憂するのではなく、まずは自分の住まいの状態を正確に知ること。そして、持ち家であれば耐震診断・改修という選択肢を、賃貸であれば「より安全な建物への住み替え」という選択肢を、それぞれ検討してみることが大切です。

執筆監修

趙暉士(ちょうきし)|宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、管理業務主任者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
賃貸リーシングとコンサルタントを経験し、後に売買仲介業務に従事。
(株)大京穴吹不動産、都心営業部、渋谷店、流通営業1課



